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月並空間

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2019年6月16日

いのちの二つの相:ビオスとゾーエー

いのちの二つの相:ビオスとゾーエー

訳あって世話をしていた、畑の近くの家の猫が軽トラの下で冷たくなっていて、亡骸を火葬場に運んだのですが、別れ際に私の口から出てきた言葉は「元気でね、またね」というもの。死んでしまっているのに、なにが「元気でね」なのかとか、「またね」なんて、いったいどこで再会するつもりなのかとか、我ながらおかしく思いましたが、それが私の自然な気持ちでした。

終わらないものがある、ってことなのかと思います。

翌日、深い草むらで草刈りをしていて、たぬきの亡骸を二体見つけました。ひとつは骨になりかけているもの、もうひとつはもう少し新しいもの。穴を掘るのも難しい場所だったので、刈った草を掛けました。他の人が踏まないように、訳ありな感じで薄めに。

立て続けに三つの亡骸に会った私は、不思議と安らいだような気持ちになりました。そこにあったのは、寒いとか、ひもじいとか、痛いとかいうことから解放された姿だったので。

終わらないものもあるけど、終わるものもある、ってことなのかと思います。

古代ギリシア人はいのちを表す言葉を二つ持っていて、ひとつは個々の有限な命を表すビオス、もうひとつは個を超えて連続する無限の命を表すゾーエー。数珠のように、ゾーエーはビオスをつないでいます。

終わるものと終わらないもの。終わるものは、終わらないものが生み出した発明なのか。終わらないものは、終わるものが見る夢なのか。そんなことを考えているのは終わる私なのか、終わらない私なのか。

いずれにせよ、死んだ猫とたぬきと私はゾーエーでつながっているということが、里山のふもとでは実感されました。

2019.04.26

ルールを破るという成熟

ルールを破るという成熟

先日、月並空間で行われたアーユルヴェーダ(生命の科学の意、インドの伝統医学)の勉強会は、こちらの先入観を打破するようなものでした。よく本で見るような、スパイスやカレーなどの話が中心かと思っていたのですが、アーユルヴェーダの考えでは、日本人は江戸時代のような食事をするほうが良いとのことで、スパイスの話はほとんど出ませんでした。

さらに驚いたのは、日本人はカレーを食べないほうがいいというクリシュナ先生の言葉。ちなみに先生は、来日30年以上になるアーユルヴェーダの第一人者です。

おずおずと「カレーが大好きなのですが…」とたずねた私への先生の回答は、「週に一回ぐらいはいいでしょう。時々ルールを破ることも大切なことです」というもの。「ダメです」と言われるかと思っていたので、驚きました。

原理主義的に「あれはダメ、これもダメ」というのではなく、ルールに固執することの危険性も熟知していて、その対応も織り込み済みというところに、インドの叡智を見ました。さらに「人生はルールを破ってこそ楽しい」とも。

もちろん、ルールを確立するというプロセスが必要なわけですが、そこに留まらないところに、豊かさと成熟を感じました。

2019.03.01

軽やかに継ぐということ

軽やかに継ぐということ

「継ぐ」ということを、随分おろそかにしてきたような気がします。それに気づかせてくれたのは、毎月開催している「テーブルで薄茶を楽しむ会」。近所に住むお茶の先生が、大切なものを堅苦しくない形で次世代に伝えていきたい、という思いで始められた集まりです。

和菓子の名前、茶碗に描かれた草花、漆塗りの蔵、それに蒲鉾の箱のふたを使って職人さんが作ってくれた菓子皿。そんな話を先生から聞きながら、暮らしの中で息づくあたたかな美意識をすっかり継ぎ損なってきたことを痛感しました。

能登は鄙びた田舎というイメージがあるかもしれませんが、海運が流通の中心だったころは交易で潤っており、多くの資本が文化に投入されていた土地です。また、北陸は「文化の冷蔵庫」と呼ぶ人もいるように、何代にもわたって継がれてきた良きものが残っている場所でもあります。

それなのに、私の世代の多くは継ぐことをせず、次世代に受け渡す役割も果たさないままにしてきました。どこかで継承についての抑圧を感じ取り、そこから自由になりたいと思っていたからかもしれません。

しかし、継ぐということは本来、そんなに重苦しいものなのでしょうか。ふと思い浮かんだのは、先生が大切なことを伝えようとするときの軽やかさ。受け取りたければ受け取ればいいのよ、というような。

軽やかな継承、というものもあるのかな、と思います。暮らしの中にある豊かさは、そうやって軽やかに受け継がれてきたものたちなのかもしれません。月並空間でも、多世代の集まりを増やし、抑圧のない継承の機会を作っていきたいと考えるようになりました。まだ間に合うと思うので。

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