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月並空間

月並空間コラムCOLUMN

2019年3月1日

軽やかに継ぐということ

軽やかに継ぐということ

「継ぐ」ということを、随分おろそかにしてきたような気がします。それに気づかせてくれたのは、毎月開催している「テーブルで薄茶を楽しむ会」。近所に住むお茶の先生が、大切なものを堅苦しくない形で次世代に伝えていきたい、という思いで始められた集まりです。

和菓子の名前、茶碗に描かれた草花、漆塗りの蔵、それに蒲鉾の箱のふたを使って職人さんが作ってくれた菓子皿。そんな話を先生から聞きながら、暮らしの中で息づくあたたかな美意識をすっかり継ぎ損なってきたことを痛感しました。

能登は鄙びた田舎というイメージがあるかもしれませんが、海運が流通の中心だったころは交易で潤っており、多くの資本が文化に投入されていた土地です。また、北陸は「文化の冷蔵庫」と呼ぶ人もいるように、何代にもわたって継がれてきた良きものが残っている場所でもあります。

それなのに、私の世代の多くは継ぐことをせず、次世代に受け渡す役割も果たさないままにしてきました。どこかで継承についての抑圧を感じ取り、そこから自由になりたいと思っていたからかもしれません。

しかし、継ぐということは本来、そんなに重苦しいものなのでしょうか。ふと思い浮かんだのは、先生が大切なことを伝えようとするときの軽やかさ。受け取りたければ受け取ればいいのよ、というような。

軽やかな継承、というものもあるのかな、と思います。暮らしの中にある豊かさは、そうやって軽やかに受け継がれてきたものたちなのかもしれません。月並空間でも、多世代の集まりを増やし、抑圧のない継承の機会を作っていきたいと考えるようになりました。まだ間に合うと思うので。

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